夜について

 

突然だけど、どす黒い空、それをわりあい規則的に引き裂く2本の電線、その交差する点こそが世界の本質かもしれないな。

分かる?

分からないよな。

分からないか。

いや良いんだけど、例えば会話って双方の理解があって初めて成立するものだし、片方が一方的に言いたいことを捲し立てるのはそれはもう会話じゃないというのはよくある話で、今こうしてリリシックでファジーなことを言ってみせて、それが伝わっていなければ会話じゃないよな。というか、どうにもそうらしい。あ、リリシックとファジーの意味、分かる? 調べてみてね。

会話が苦手なのは本質的にそれを娯楽と解釈しているからで、つまらない言葉と言葉の組み合わせは嵌めるはずのところが真っ直ぐなジグソーパズルみたいな感覚で、聞く気もなんだか起こらないし言葉を続けようとも思えないし。これは欠落。欠落は欠落なりに好きになってやろうとしていて、だから通じさせないための言葉を一生懸命考えて話して、向こうがそれを聞き届けたときの、なんだそれは、みたいな顔を楽しんでいたりする。

自分が聞きたいと思うかどうかなんて所詮好みの問題だし、相手都合も何もないのだけれど、言葉を交わすことにちょっとした抵抗感がある。なんだろう、どうせ伝わらないしなあ、ほら伝わんなかった。みたいな? 伝わんないことが決まりきっているくせにそれでも口に出すのは、そうやって相手の全てを無視してまで煙草を吹かすみたいに格好つけたいときだとか、相手にちょっとした恨みがあるときだとか、あるいは伝わってくれることを期待しているときだとか。お酒に酔っているときも言ってしまうのかも。ふと口にしてみたとき、紫煙みたいに空に打ち上がって消えてくれれば良いのだけど、それでもたまに(形だけでも)理解してもらえるときがあって、嬉しくなったり、それはそれで嫌だな、と感じたり。

伝えたい言葉がたくさんあるように、伝わってもらうと困る言葉が少なからずあることを、よく知っている。これはどこかで書いた言葉だけど、だから、言葉が理解されれば、嬉しい反面、別に伝わってもらわなくたってよかったのになあ、と思う。そんな風に驕り高ぶっているくせに、伝わらなかったら、やっぱ伝わんねえよなと拗ねてみせる。本音はやっぱり伝わってくれたほうが嬉しくて、というかそんなに難しいことを言っているのではなく単に伝えるやり方を端折っているだけだし、およそ10文字ぐらいの言葉で伝わってほしい。上のだって、電線の交差点が夜の呼吸だ、これぐらいでいい。

自分の中で会話とはつまり、電線の交差点が夜の呼吸だ、夜というより街じゃないか、確かにそのほうがしっくりくる、みたいな感覚で、だから、それ以外の会話をうら寂しく思ったりする、伝えさせる言葉だけの会話なんてずいぶんつまらない、もっと右脳で生きてよ、と思う。別に今には不満はなくて、でもそういう会話をしたいなと思うのはそれこそニコチン切れみたいなものかもしれない。かといって無理にこちらに合わせようと頑張られても紛い物なのだから困る。何が言いたいかって、勝手にしておいてくれたらいいので、会話した気になられていたらそれは嫌だな、と思っている。自信なんて歳食ってまで口にするような言葉じゃないけれど、感性にだけは自信がある、だからそう易々と自分の感性を飲み込んだ振りをされたら困るのだ、別に誰に対してじゃなくそう思っている。

孤独というのとは少し違うけれど、不気味な感性を持っていたら色々と生き辛い。好きなものは人並みでも、それをどう感じるかが人と違っていたら周囲とは噛み合わないし、ふと生きるの辛いなと口にしたときになんだこいつと思われがちだ。言語感覚とか本当にそうで、どこかの飲み会か何かでこの本めちゃくちゃつまんないからめちゃくちゃ面白いみたいな話を力説していたら、1人を除く全員がハテナマークを頭に浮かべていた。(残りの1人は本が好きな人らしかった。) 不気味なものはただ不気味でしかなくて、別に特別でも選ばれし者でもなんでもない。そういう孤独は文字を書けばふわりと解決することが経験則上わかっているので問題ない、堪えるのは分かった振りで、そんな風に分かってくれるな、とスケープゴートにされたみたいな気分になる。

 

もう一度言及するけど、どす黒い空、それをわりあい規則的に引き裂く2本の電線、その交差する点こそが世界の本質かもしれないな。

分かっても分からなくても、そういう話をしたい。少しでも分かってくれたら、なんとなく感じるところがあるのなら、自分にとっては幸せなことだと思う。幸いにも、多少感性が尖っていても、こういう環境にいるのだから自分と似たような感性の持ち主がいないわけじゃない。探せばいくらでも見つかると思う。だから別に自分を特別視したりはしていない。一応断っておく。

夜について上の文言で語ったとき、同じぶんの質量の夜についてのことを話してくれるような、それが会話だと思う。そこまで届かないのなら、足りないな、とあきらめる。常々あきらめている。

上の言葉は別に理解しなくたっていい。電線じゃなくたっていい。どこまでも遠ざかっていく空じゃなくたっていい。夜についてどう思う? 話をしたいんだ。話せないのなら仕方がない、それでいいと思う。