メリーゴーラウンドが悲しい夜

あざやかなアルコール漬けの夜に転がされる。灰色の天井は都会の空のように濁る。口ばかり立ってどうしようもない夜のことを思い出す。切り替わって朝、指先から熱が抜けていく。退屈が部屋を溶かす。それを元通りにするのに、時間がかかる。

パステルカラーが良かったと思う。近づこうとしていた。好きな色を欲張って混ぜ込んで、出来上がった色は大抵胸やけのする色だ。ふと考える。たった一色きりを残して、他の色が視界から消え去ってしまうのなら、何色がいいか。

刺してもちょっとやそっとじゃ気付かれない赤色のナイフがいいか。それか、風船の中を泳ぐ空色。綺麗だと思う。緑なんかも、世界が終わった後みたいでいい。

失ったものを、取り返しがつかないと泣きわめく前に、他にやるべきことがあった。先回しにしていると、そんなことが初めから世界のどこにも存在していないみたいに思えて、気が楽だった。どんな色をどれだけ失っても、最後の最後に残る黒。もう季節だって忘れている。忘れたいことを忘れてしまうのが、何よりも悲しい。

薄暗い部屋で、メリーゴーラウンドを外から眺めるみたいに、黒い画面を見つめている。期待が過去になる瞬間を、今か今かと待ち望んでいる。行き止まりを怖がりながら、その実そんなものがあった方がよほど幸せだと巡らせている。ドアノブを握る力がなかった。窓を開けるのは、埃が立ってどうも気が進まなかった。換気口の口は、都会の空気は汚いからと、コピー用紙で塞いでいる。切れかけの白熱球がちかちかと騒いでいる。

パステルカラーが良かった。上から塗り重なって、何にでもなれる。色がついてしまっているのなら、できるだけ混じりけがなければいい。幸せの鋳型に溶かして、絵の具を混ぜて再構成してくれるのなら、それが本望だった。刺した注射針の数で正解か不正解かが決まる世界が良かった。

メリーゴーラウンドを見ている。がなり立てるライトの白昼夢を見ている。柵の向こう側にある夜明けを見ている。膜一枚を隔てた向こう側で回る誰かを見ている。薄暗い部屋で、鮮やかなアルコール漬けの歌を歌う。今はもう、ただ歌っている。