グングニル

綺麗な文章って何なんだろうね。努力すればするほど、綺麗な文章を書くよりもずっと大事なことがあるはずだよなと実感する。大事なことというか、文豪の轍を歩くことのそれ以前にやるべきことがある気がするんだよな。いや、それも何か違うのかもしれない。

しっかりと長いの書きたいんだよな。長いのを書くのに一番大事なこと、これは間違いなく妥協。そんな20万字も神経尖らせて綺麗な文章書き続けるなんて10年ぐらいかかるし。俺は大人だから妥協のもたらす恩恵を知ってるし、大体、そんな風邪の日の夢みたいな地獄は味わいたくない。いや、30万字ぐらいの全部綺麗な小説ってあることにはあるんだろうけど、そんな才能はないし。こういうのは選択の問題で、多少雑でもいいから長いのを書くのと、短くて綺麗なのを書くの、どっちかを選ばなきゃいけないんだよな。理由はそれだけじゃなくて、先人の文章の美味しいところを吸い取ってレトリックをキメるのに罪悪感が湧いてきたんだよね。罪悪感というか、嘘を書いているときのあの感じ? 信じさせるのじゃなくて、信じてくれと図々しく頭を下げるような。いや、文藝は過去の蓄積の連鎖だって、周りでは俺が一番知ってそうなもんだけど(周りの人間は俺以上にろくすっぽ文藝を読まない)、正の連鎖じゃなくて横流ししてるだけなのがよくないんだよな。なんだろう、転売? 別に俺が生み出したわけでもない言葉を使って虚勢張るの、やっぱりいい気分じゃない。そうするしか道はないってことは百も承知なんだけどな。

個人個人が突き詰めたいところを追い求めていけばいいと思う。巧さなんて一側面でしかないよな。分かってる。分かってるんだって。世界の隅っこで花を植えるとか言ってたけど、そんなもんだよな。蓼食う虫も好き好きとか、どうせ誰も助けてくれないとか。聞き飽きた以上に言い飽きた。でも蓼よりはブーゲンビリアの方がいいよな。個人の好みだけど。だから、まぁ、別にどうでもよくなっちゃったんだよ。今酒で酔ってるからこんなこと言うけど、ちゃんと期待してるし、ちゃんと好きだよ。誰相手とかじゃない。等しく、平等に。俺は俺さえよければそれでいいなんてよく口走るけど、やっぱり誰かが隣にいなきゃ駄目なんだ。駄目じゃない今が充分幸せだとも思ってるし、誰かの導火線に火をつけられない自分の実力不足を嘆いてもいる(この表現何度目だ?)。いや、だからこそ、余計に苦しいんだよな。今、というか最近はあんまり本を読んでないからいいんだけど、読みまくった結果についてまわるものが割に合わない駄文と才能がないって事実だったら嫌だよなと思って努力できずにいる。上手くなりたい、なんて言葉は馬鹿馬鹿しくて、上手くなりたいなんて言うその数秒を読書にあてればいいし、というか、上手くなるんじゃなくて上手く見せる技術を身に着けるって言うのが正しいんだし。いやでも上手くなりてえな。それ本当? いや、そうなんだよ。文章の上手さなんてやっぱりどうでもいい。言いたいこと伝えられたらそれ以上は望まなくて、その伝えるってプロセスに上手さが必要なのであって。いや、やっと気付いた感じがある。上手いのを書きたい人間がそういうのを書けばいいのであって、追い求めてない人間からすればどうでもいいな。そんなこと。いや、どうでもってそりゃ言い過ぎかも、いや言い過ぎだけど*1、もっと大事なことがあるよな。しっかり読者を楽しませたり、現実を追い求めたり、魔法をばら撒いたり。本当に大事なのはそっちだよ。二の次でいい。上手さなんて。二の次には来なきゃいけないけど、でも、個人的には、綺麗な文章で着飾って騙すよりはずっと誠実だと思う。伝えたいことがあって文章を書いてるんなら、下手くそで拙い言葉でも、まっすぐ届けるように努力するほうが、よっぽど善だと思う。心の底からそう思う。本当に。伝えきれないのがもどかしいぐらいに。

真っすぐを届けてくれ、と思ってる。文章論がどうとか、それよりも大事なことがある。気にすることはないんだ。日本語がどうだなんて。部外者の戯言なんて唾棄すればいい存在だ。彼らにとっちゃ他人事なんだよ。自分の作品なんて。そんな奴らに足をとられることはない。上手くなくてもいいって開き直ったっていいと思う。耳を貸すなってわけじゃない。これは優先順位の話だ。他人の視線に怯えることなんてない。怯えて、言いたいことも言えなくなるようなら、堂々と胸を張って、どストレートに打ち明けた方がいい。クリシェとか叫んでる奴はつかなくなったテレビを叩くみたいに頭でもぶん殴ればいい。本当にそう思う。しょせん奴らにとったら他人事なんだし。頼むよ。傷つけたくないんだ。君の感情を傷つけたくない、とかじゃなくて、君の個性を傷つけたくないんだ。拙くても熱があればそれでいい。忘れちゃダメなこと。文章の綺麗さなんて二の次だよ。一時期綺麗さを信奉してた時期があったけど、それって陥りがちな罠で、真理じゃない。ほら、火玉が落ちない線香花火ってつまんないし。優等生の読書感想文じゃなくて、花火が見たいんだ。今は本気でそう思う。信じてくれ。