一睡の夢

例会で原稿を書いていた。少し手を動かすのに疲れて、パソコンをぱたんと閉じて、目の前に映ってるぶんだけの景色を観葉植物のように眺めていると、何も憂鬱なことは思い当たらないのに、死にたいような、死の淵で深海の底をつまらなさそうに眺めているときのような気分になる。季節の変わり目で、成り行きのように風邪を引いて鼻がろくすっぽ機能せず、食べ物の風味も分からず、息も絶え絶え、声を上げようとすれば喉が悲鳴を上げ下手くそなヴァイオリン奏者の三重奏のような音を出すにとどまっていたことだとか、よく知ってる知人をベースに脳内で作り上げた別人の何かにいかに嫌なことをされる可能性があることを想像して無常観と悦と愚かさを感じ入ることだとか、時間がすっかりもとの風景を奪ってしまった教室の様子だとか、明日が誕生日であることとか、不安材料でもなければ僕を脅かすことでもないが、何かとこころを一途にかき乱す感情の連鎖がすっかり脳をくたくたに撚れさせているので、感情が風邪を引いた様子でかたかたと震えているのである。すっかりメランコリーにとりつかれて、心ここにあらずのまま歩いてご飯を食べて家に帰った。偉大な芸術の巨匠はメランコリーに憑りつかれると神的狂気を発揮して作品群を遺すのであるが、僕に神が憑りつくほど神も暇ではないだろうし、メランコリーがどうとぬかすのはきっと気のせいだと思う。脳を埋め尽くしている理性感情の類にいちいち名前をつけないとやってらんないのだ。疲れてるだけだから早く眠りたい。そしてどうせ寝ない。