自己顕示欲

鉄道を交錯するように流れる川、その川沿いに乱れるように咲いていた桜、その桜の木が二週間見ないうちにすっかり緑色に染まっていた。葉桜を湛えた木は偏に中庸だった。二週間は短いな、と意味もないことを悟った気分になってキャリーバッグを片手に階段を登った。すれ違う人の顔はどれもこれも明るい。なんだか取り残されたような気分になった。誰に取り残されているのかもよく分からない。頭の中の時計は電池が切れているみたいに僅かも動かない。色んな感情の間を行ったり来たりしている。停滞である。

 

小学校のころ、36色の色鉛筆を買ったことがあった。色鉛筆の真っ当な使い方も知らないのに、まこと宝の持ち腐れである。青色のケースから36本の色とりどりの鉛筆が顔を出しているのを見て、無性に気持ちが高ぶったのを覚えている。その色鉛筆で何を描けるわけでもないのに、強くなった気分になった。学術書を買ったときは意識が高いのに、三日もすればやる気を失って本棚の奥地に仕舞い込む一連の流れと同じものに起因すると思う。36色の色鉛筆を使って鮮やかなものを作り上げる自分を想像して嬉しくなったりするように、本を読み切った自分を想像して喜んでいるのである。成長してないな。

 

西宮北口駅のスロープから、バスのロータリーを見下ろした。車一台として中を走っていなかった。白線だけが一人前に引かれているのが虚無感を生み出していた。花壇のゼラニュームが空しく風に揺蕩っていた。高校のころ、窓際の席を陣取って授業を受けていたとき、眼下のグラウンドを眺めていたのを思い出した。体育の授業はないらしく、グラウンドには人ひとりとして居ない。白線がぎこちない曲線を描いて引かれているのを見ていたのを覚えている。誰のためでもなく、誰のためにもならないのに白線が引いてあった。兵どもが夢の跡。何度も反芻しては、今も江戸時代も同じだったのかな、と解釈という名のエゴイズムを両耳にぶら下げて改札をくぐった。イヤホンの金網の奥では同じ音が鳴り続けている。ふと、音楽に関して他人に依存し続けることが虚しく思えたりする。生産者になれっこないと自らで烙印を押してきた。判決を信じて疑わない防衛機制はちゃんと正しいことなのだ。均衡が崩れることへの恐怖を愛してやまない。この世に存在する絶望的な事実は何よりも僕を守っているのだ。

 

 

 

人は自分の理解できないものをすぐ見下そうとするからな。理解しようとする努力すら怠る。くっだらない自己先入観で「どうせ大したこと言ってないだろ」つって考えることから逃げるんだ。理解できないんなら仕方ないさ。でも理解できないからって見下す癖をなんとかしろ。脳みそ余らしてるくせに一秒も考えずに理解できないと言うのをやめろ。犯罪者としての自覚を持て。