ユギー

 

 

 

CDのケースが割れたら嫌な気持ちになる。その薄っぺらい虹色のディスクを買うのは中身に入っているものが欲しいから、それだけだ。目的が達成された以上、ケースが割れようが割れまいがどうでもいいはずなのだ。しかし現実、透明のそれにひびの一つでも入ろうものなら、買いなおすことすら考える。整っていてほしいと思う。完璧主義者じゃないけれど、でも、完璧でいてくれるならそれに越したことはない。

 

不完全を愛することはできない。できたとして、それは無償の愛だ。いつも思う。そんなものは必要ない。それは誰にだって必要で、でも今の自分には十分に足りている。こぼさず蓋を開けるのが大変なぐらいだ。不完全は嫌だ。完全がいい。完璧がいい。だから、他人の前では完璧でありたいと願う。一度だってそうなれたことはないけれど、常に願っているのは事実だ。

好かれたいか好かれたくないかなんてどっちを選ぶかは始まる前から分かりきっていて、さりとて無闇にそう扱われるのもガムみたいで嫌だ。そこにあるものを適当に抱きしめる人間がいる。よく飽きてどこかへ行く。掴み取りたい。理由が欲しい。理由のない愛は蒐集家の残酷さによく似ている。騙しているつもりもないのだろうけど、騙されている側が騙されたことに一生気付けないことがあるのと同じで、騙している側が騙していることに気付けないことだってあり得る。重力に逆らって上昇していく風船は、だからこそ娯楽だ。

 

分かるか?

分からないか。

俺は何度だって同じ話をする。

 

拾ったものと同じ分量の何かを捨てて生きている。バケツリレーみたいなものだ。水が渡った先には火葬場の火がある。そういう意味だ。

トラックの真横を通り過ぎる自分と同じ数だけ、そのトラックに潰されて死ぬ自分がいる。そういう意味だ。

見えない誰かが俺に繋がったケーブルをペンチで切断している。そういう意味だ。

少しずつ減っていく。そういう意味だ。

戻れない。そういう意味だ。

苦しまずに死ねる世界線に自分はいない。そういう意味だ。

苦しまずに死ねる世界線に自分はもういない。そういう意味だ。

とっくにいない。そういう意味だ。

世界は明るい。太陽は眩しい。だから、そうじゃなくてもよかったと思える自分もいる。そういう意味だ。

ああなれたらいい。そういう意味だ。

 

何度だって同じ話をする。