私信

残酷なことを言っているのはさすがにわかっている。結局誰かに読まれる機会が増えようが、時間と精神とコーヒー代を削って本当に出来の良いものを作らなければ、素晴らしい、すごくいい、好きだと褒めてもらえることはない。生半可な覚悟じゃ中途半端なものしか出来ないってのもわかってるし、先天的にこういうことが好きじゃないと結局どこかで壁みたいなものにぶち当たるってのも知ってる。書いて書いて書きまくって、それでも物量こなして経験値稼ぐだけじゃ書く能力自体は全く増えない。早く書けるようにはなる。でもクオリティは微妙だったりする。そんなもんだぜ。そもそもこんなの才能がすべてだ。読書の経験値がどうってのもそもそも読書が好きか嫌いかで決まってる。意識的にやってやろうと思いなおす瞬間はいくらでも訪れるけれど、読書の才能のある人間には敵わないぜ、やっぱり。修羅の世界だろ。練習すれば0を1にするぐらいなら出来る。でもそこからなんだ。1から先へと進まない。普通逆じゃねえか。残酷だろ。

マジになってナイフ研いで、死ぬ気になって机に噛り付いて、風邪ひいてそれでも書いて、風邪だからむしろ目にもの見せてやんよって陰鬱な気分でパソコン殴って、そうやって出来上がった作品も、誰かにさらっと消費されてそれで闇の中へ消えてくだけなんだよな。よほどのレベルじゃなけりゃな。仮にけっこう良いものが出来上がっても、読む人が読む人だとふーんで終了。そこからさらに運の壁を越えなきゃいけねえ。ちゃんとわかってくれる人に読まれないとダメなんだぜ。だからアドバイスも何もないんだよな。そのくせ数回その運の壁を乗り越えた人間は何書いてもチヤホヤされる。読む人が読んでくれるんだからな。それは悪いことじゃないんだ。いいものが審美眼のある人間に読まれることは健全だ。でもそれを傍から見てる人間は苦しくて仕方がないんだ。クオリティ見てもそんなに劣ってるとは思えないのに、運の違いだけで現状の差が歴然だ。残酷だろ?

まぁそんな世界なんだから、俺は無理に書けとは言わないよ。本当にな。やりたい奴だけやればいい。マジになるのはすげー辛いんだ。俺自身めちゃくちゃ恵まれてる方だから、これでもマシな方なんだ。本気出して誰にも見向きすらされないのは本当に退屈だと思う。やりたいのならやればいい。でも本気でやりたいなら、何かひとつ犠牲にしてでも、身体を動かすべきだ。マジで荒唐無稽なことがいいな。今から徹夜して一本書いてみようぜ。それで翌朝目を擦ってその作品読んでみて笑いながらゴミ箱送りにしろ。アイデア煮詰まったら散歩にでも出掛けろ。行く宛がなかったら鴨川沿いを三条まで往復すればいい。部屋で考えてても何も生まれないしな。マジになってみろ。案外時速出るぞ。毎時3000字ぐらい余裕だ。短いのなら3時間もかからずに書ける。上手く書けないところはスルーでいこうぜ。通して読んでみると案外そうでもなかったりする。で、そういうのを毎日やってみたらいいんじゃないの。たぶん書けるようになるぜ。というかそれぐらいしないとヤバい作品は書けねえよ。日和ってたら筆は進まないだろ。

思い付きなんだよな。結局。だから締め切りなんかあっても書けない日は書けないし、そんなの関係なく書ける日は書けるんだ。思い付きで滅茶苦茶やってみようぜ。何か思いついて書き始めたら、あとは想像力の赴くままだ。